Q. スパイ防止法がなくても、現行法で十分なんじゃないの?
かつて、スパイ防止法制定に反対していた人々は「スパイを取り締まる法律がすでにあるのに、新たにスパイ防止法を作る必要はない」と言っていました。どこにあるのか? 日本の刑法の中にあると主張します。
第三章 外患に関する罪
(外患誘致) 第八一条 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。
(外患援助) 第八二条 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは二年以上の懲役に処する。
確かに「外国と通謀して」とは、スパイ行為のことでしょう。外国に「軍事上の利益を与えた者」もスパイのことです。反対派はこれをもって、スパイ防止法はすでに日本に存在すると言います。しかし、条文に「武力を行使させた者」「武力の行使があったときに」とあるように、 外患に関する罪は戦争(有事)の際の規定です。平時の時の取り締まりも必要でしょう。どうですか?
こう言うと、反対派の人は「平時の際の取り締まり法もありますよ」と答える。どこに?
「国家公務員法や地方公務員法、自衛隊法にもある」と言うのです。
国家公務員法
(秘密を守る義務) 第一〇〇条 職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。
地方公務員法
(秘密を守る義務) 第三四条 職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。
自衛隊法
(秘密を守る義務) 第五十九条 隊員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を離れた後も、同様とする。
反対派の人は、これらの条文をもって、スパイ防止法はすでにあると述べていたのです。
しかし、これらは公務員の服務規律であって、秘密の保護を目的としたものではありません。公務員が対象なのです。民間人が重大なスパイ行為を犯しても罪を罰することができないのですね。
また、特定秘密保護法の項目でも指摘しましたが、これらは秘密の漏洩を防ぐための法律であって、スパイ行為自体を取り締まるものではないのです。やはり、日本にはスパイ防止法はないのです。
「スパイ防止法はすでにある」と言っていた皆さん、スパイ防止法はないのですから、新たに作ることに何の問題もないですよね?
(つづく)
濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年生まれ、兵庫県相生市出身。
歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。
現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。
著書に『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『日本史に学ぶリストラ回避術』(北辰堂出版)、『日本人のための安全保障入門』(三恵社)、『歴史は人生を教えてくれる―15歳の君へ』(桜の花出版)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『日本人はこうして戦争をしてきた』(青林堂)、『超訳 橋下徹の言葉』(日新報道)、『教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦』(彩図社)、『昔とはここまで違う!歴史教科書の新常識』(彩図社)、『靖献遺言』(晋遊舎)、『超訳言志四録』(すばる舎)、本居宣長『うひ山ぶみ』(いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ16、致知出版社)、『龍馬を斬った男 今井信郎伝』(アルファベータブックス)、『勝海舟×西郷隆盛 明治維新を成し遂げた男の矜持』(青月社)、共著『兵庫県の不思議事典』(新人物往来社)、『赤松一族 八人の素顔』(神戸新聞総合出版センター)、『人物で読む太平洋戦争』『大正クロニクル』(世界文化社)、『図説源平合戦のすべてがわかる本』(洋泉社)、『源平合戦「3D立体」地図』『TPPでどうなる? あなたの生活と仕事』『現代日本を操った黒幕たち』(以上、宝島社)、『NHK大河ドラマ歴史ハンドブック軍師官兵衛』(NHK出版)ほか多数。
監修・時代考証・シナリオ監修協力に『戦国武将のリストラ逆転物語』(エクスナレッジ)、小説『僕とあいつの関ヶ原』『俺とおまえの夏の陣』(以上、東京書籍)、『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』全15巻(角川書店)。