民主国家は罪刑法定主義が基本で、あらかじめ犯罪の構成要件や刑罰を定めておかなければ、いかなる犯罪も取り締まれません。スパイ罪がなければスパイ活動は“合法”と見なされ、それでわが国は「スパイ天国」に陥ってしまったのです。
佐々氏が言うように、スパイ行為に付随する行為で取り締まるしかないからです。言ってみれば、強盗罪がないから車で逃げる強盗がスピード違反したところを道路交通法違反で捕まえるようなものです。スピード違反をしなければ強盗を捕まえられないように、スパイも逮捕できない。そんな“不思議の国”が日本なのです。
北朝鮮による拉致事件が多発した当時、警察庁警備局は『スパイの実態 スパイ事件簿』(日刊労働通信社=1984年8月)を編集発刊しました。その中で山田英雄局長(後の警察庁長官)はこう述べています。
我が国は、現在、世界主要各国がことごとく制定している、いわゆる一般的なスパイ罪の規定はない。その中で、戦後、我が国を場として、我が国の国家的機密を探知するスパイの活動は後をたたないのみならず、国民の防諜意識の低さにつけ込んで、その活動はいよいよ活発化して来ている。警察としては、違法行為を取締まるという責務に基づいて、戦後数多くのスパイを各般の法令違反によって検挙しつづけてきた。今後とも、現行法令を活用して、多くのスパイ検挙は続けられていくであろう。しかし、スパイを摘発しその暗躍を防ぎ止めるためには、国民の防諜意識のたかまり、国の機密を守ることの必要性の認識、更には国益についての正しい理解が基盤とならなければならない。
北朝鮮の元工作員は「日本には簡単に侵入し、捕まっても微罪だから安心して活動できる」と証言しています。