なぜ新・スパイ防止法が必要なのか(1)

 スパイ防止法とは、その名の通り、スパイ行為を取り締まる法律です。かつて、日本においても、このスパイ防止法を制定しようという動きがありました。1972年、当時の首相・佐藤栄作も「機密保護法制定はぜひ必要」と述べていましたが、実際に法律制定に向けた動きが高まったのは、80年代に入ってからでした。

 与党・自民党内において、法律の必要性を唱える声が高まり、1985年6月6日には、自民党議員・伊藤宗一郎ら10名によって「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(通称:スパイ防止法案)が議員立法として衆議院に提出されたのでした。中曾根康弘内閣の時代です。元々、政府は内閣法案(首相が内閣を代表して国会に提出する法律案)として提出しようとしていましたが、反対の大きさに断念していました。

 どのような法律案であったかは、また後に紹介しますが、スパイ防止法制定の動きに、野党(日本社会党・公明党・民社党・日本共産党・社会民主連合など)と朝日新聞をはじめとするマスメディアは「国民の権利が制限される」「報道の自由が侵害される」として大反対。

 こう聞くと、平成の御代を生きる皆さんには、ピンとくるものがあるのではないでしょうか?

 そう、2013年、安倍晋三政権下における「特定秘密保護法」制定の動きに対するマスメディアと野党、文化人による反対の大合唱とそっくりですね。

 余談となりましたが、スパイ防止法制定には、自民党の中からも反対の声が上がっていました。谷垣禎一、村上誠一郎、白川勝彦、熊川次男、杉浦正健、大島理森、太田誠一、谷津義男といった若手議員が反対に回ったのです。谷垣氏は「わが国が自由と民主主義に基付く国家体制を前提とする限り、国政に関する情報は主権者たる国民に対し基本的に開かれていなければならない」と述べて反対したのです。

 一方、野党は徹底して法案審議に応じようとしなかったために、85年12月21日の国会閉会に伴って、スパイ防止法案は廃案となってしまいました。その後、1988年に自民党議員から、スパイ防止法案の国会提出の動きがありましたが、断念しています。

 90年代を経て2000年代に入りますが、スパイ防止法制定の動きは止まったままでした。新たな動きを見せるのは、2013年、特定秘密保護法案が国会に提出された時でした。

つづく

濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年生まれ、兵庫県相生市出身。
歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。
現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。

著書に『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『日本史に学ぶリストラ回避術』(北辰堂出版)、『日本人のための安全保障入門』(三恵社)、『歴史は人生を教えてくれる―15歳の君へ』(桜の花出版)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『日本人はこうして戦争をしてきた』(青林堂)、『超訳 橋下徹の言葉』(日新報道)、『教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦』(彩図社)、『昔とはここまで違う!歴史教科書の新常識』(彩図社)、『靖献遺言』(晋遊舎)、『超訳言志四録』(すばる舎)、本居宣長『うひ山ぶみ』(いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ16、致知出版社)、『龍馬を斬った男 今井信郎伝』(アルファベータブックス)、『勝海舟×西郷隆盛 明治維新を成し遂げた男の矜持』(青月社)、共著『兵庫県の不思議事典』(新人物往来社)、『赤松一族 八人の素顔』(神戸新聞総合出版センター)、『人物で読む太平洋戦争』『大正クロニクル』(世界文化社)、『図説源平合戦のすべてがわかる本』(洋泉社)、『源平合戦「3D立体」地図』『TPPでどうなる? あなたの生活と仕事』『現代日本を操った黒幕たち』(以上、宝島社)、『NHK大河ドラマ歴史ハンドブック軍師官兵衛』(NHK出版)ほか多数。
監修・時代考証・シナリオ監修協力に『戦国武将のリストラ逆転物語』(エクスナレッジ)、小説『僕とあいつの関ヶ原』『俺とおまえの夏の陣』(以上、東京書籍)、『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』全15巻(角川書店)。


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