なぜ新・スパイ防止法が必要なのか(6) 拉致事件を許した日本人の精神構造:政界編

 1970年代・80年代に多くの日本人が北朝鮮工作員によって拉致されたことを見てきましたが、日本政府の対応が鈍く、88年になってやっと、一連の失踪事件が北朝鮮による拉致と認める有様でした。さらに驚くべきは、拉致が北朝鮮によるものとほぼ分かってきてからも、北朝鮮を擁護する発言をした人々がいたことです。

 社会民主党党首を務めた土井たか子は、北朝鮮に対する「食料援助は、少女拉致疑惑等とは切り離して人道的見地から促進すべきだ」(97年5月14日付朝日新聞)と述べ、拉致被害者家族連絡会の増元照明さんが、拉致問題に関する協力をメールで依頼しても無視。エレベーターで偶然会って、メールの返事をお願いしても、土井氏から一言の返事ももらえなかったとのこと。 

 ちなみに、社民党に所属していた大脇雅子、辻元清美議員も増元さんの協力要請メールを無視したようです(「救う会全国協議会ニュース」2001.7.9)。

 総理大臣退任後に社民党初代党首に就任した村山富市は訪朝した際に「故金日成主席の偉業をしのび、その志は永遠に引き継がれ、人民の幸せと世界の平和の礎となる」と記帳しました(99年12月3日付読売新聞)。

 社民党の理念は「平和・自由・平等・共生」であり、弱者にも優しい基本政策を標榜しています。であるのに、拉致被害者家族に対するこの態度は、あり得ないものですし、同党がどこを向いて仕事をしているかが、これらの話からも垣間見れます。

 自民党で「影の総理」と言われた野中広務元議員も村山氏と訪朝した時に「金日成主席閣下の不滅の遺徳」と記帳していますし、「日本人の拉致疑惑を解決しないで、米支援はけしからんというが、日本国内で一生懸命吠えていても、横田めぐみさんは帰ってこない」(2000年3月30日付産経新聞)と講演しているのです。

 訪朝して以降に、それまでの拉致被害者救出を願う声を翻し、「拉致疑惑といっても犯人を特定している訳ではない」(99年12月17日付産経新聞)と北朝鮮寄りの発言を繰り出した中山正暉・自民党衆議院議員のような人もおります(97年11月訪朝)。北朝鮮にまるめ込まれてしまったのでしょうか。

 民主党政権時に総理を務めた鳩山由紀夫も「困っているときに、拉致事件等の問題が解決しないと援助できないというのでは、彼らの気持ちを和らげることが出来ないのではないか」(97年4月19日)と講演しています。

 以上、政界関係者の拉致事件に対する態度や発言を見てきました。リベラル派、ハト派、人権派と呼ばれるような政治家は、北朝鮮に甘く、拉致被害者家族に冷たいことが分かります。彼らは何かというと「日本による朝鮮半島の植民地化」「戦後補償」を持ち出して、北朝鮮に同情的です。

 日本は、人道的配慮から北朝鮮に対し、無償で15万トンの米支援(95年)をしています。しかし、それで、北朝鮮が軟化し、すぐに拉致被害者が帰ってきたでしょうか? 日本に対する敵対的、挑発的態度を改めたでしょうか? 北朝鮮の飢餓問題が解決したでしょうか?

 そうはなっていませんし、北朝鮮は、国際社会の目を欺き、核開発していたのです。これらのことを考えれば、ハト派政治家の頭の中は「お花畑」で覆われているとしか考えられません。

つづく

 

濱田 浩一郎(はまだ こういちろう)
1983年生まれ、兵庫県相生市出身。
歴史学者、作家、評論家。皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
兵庫県立大学内播磨学研究所研究員・姫路日ノ本短期大学講師・姫路獨協大学講師を歴任。
現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し迫り、解決策を提示する新進気鋭の研究者。

著書に『播磨赤松一族』(新人物往来社)、『あの名将たちの狂気の謎』(中経の文庫)、『日本史に学ぶリストラ回避術』(北辰堂出版)、『日本人のための安全保障入門』(三恵社)、『歴史は人生を教えてくれる―15歳の君へ』(桜の花出版)、『超口語訳 方丈記』(東京書籍のち彩図社文庫)、『日本人はこうして戦争をしてきた』(青林堂)、『超訳 橋下徹の言葉』(日新報道)、『教科書には載っていない 大日本帝国の情報戦』(彩図社)、『昔とはここまで違う!歴史教科書の新常識』(彩図社)、『靖献遺言』(晋遊舎)、『超訳言志四録』(すばる舎)、本居宣長『うひ山ぶみ』(いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ16、致知出版社)、『龍馬を斬った男 今井信郎伝』(アルファベータブックス)、『勝海舟×西郷隆盛 明治維新を成し遂げた男の矜持』(青月社)、共著『兵庫県の不思議事典』(新人物往来社)、『赤松一族 八人の素顔』(神戸新聞総合出版センター)、『人物で読む太平洋戦争』『大正クロニクル』(世界文化社)、『図説源平合戦のすべてがわかる本』(洋泉社)、『源平合戦「3D立体」地図』『TPPでどうなる? あなたの生活と仕事』『現代日本を操った黒幕たち』(以上、宝島社)、『NHK大河ドラマ歴史ハンドブック軍師官兵衛』(NHK出版)ほか多数。
監修・時代考証・シナリオ監修協力に『戦国武将のリストラ逆転物語』(エクスナレッジ)、小説『僕とあいつの関ヶ原』『俺とおまえの夏の陣』(以上、東京書籍)、『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』全15巻(角川書店)。


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