北朝鮮も依然として日本でスパイ工作を進めています。日本国籍を取得した北朝鮮工作員が脱北者の情報を取り扱う民間団体に偽装潜入し、その団体の責任者を中国で拉致しようと企てていたといいます。 

 これを報じた産経新聞(2012年6月22日付)によると、大阪府警外事課は6月21日、日本国籍を取得した元在日朝鮮人の会社社長、吉田誠一容疑者(当時41)らを詐欺容疑で逮捕しました。吉田容疑者は北朝鮮工作機関から指示を受け諜報工作活動を行っていたとしています。 

 吉田容疑者は脱北者らの情報を収集するため、北朝鮮の情報を取り扱う民間団体にスタッフとして潜入。北京や東南アジアにたびたび出国し、北朝鮮の工作機関幹部と接触し、指令を受けて同団体の責任者を中国で拉致しようと計画していました。 

 一体、吉田容疑者とは何者なのでしょうか。朝鮮大学校出身で、在日朝鮮総連の機関紙「朝鮮新報」英語版編集長を務めた後、日本国籍を取得。有名私大大学院を経て、国立大学の博士課程に在籍していました。つまり朝鮮総連機関紙の編集長、融資金をだまし取る企業の社長、大学院生、民間団体スタッフ、「北の工作員」という5つの顔を巧みに使い分けて工作活動を続けていたといいます。 

 吉田容疑者が指令を受けていたのは北朝鮮の対外工作機関「偵察総局」。偵察総局は朝鮮労働党傘下の作戦部と日本人拉致を実行した「35号室」、人民武力省傘下の偵察局を統廃合し2009年に発足した北朝鮮の諜報機関のことです。 

 10年には脱北者を装い韓国に潜入した工作員2人が、北朝鮮から亡命した黄長燁労働党書記の暗殺を計画したとして韓国当局に逮捕されましたが、これは偵察総局の金英徹局長(金正恩第1書記の側近)の指示だったといいます。 

 治安当局は、小泉訪朝(2002年9月)で拉致を認めた北朝鮮がその後も日本国内で諜報活動を続け、多くの工作員が暗躍してきたと見てきました。そのことを裏付ける事件といえます。 

 金正恩第1書記が「遺訓」を継承し、金正日時代に増してスパイ工作が活発化させているとするなら、再び拉致事件が起こらないとも限りません。吉田容疑者のほかに多数の工作員が潜入している可能性が高く、脱北者を装い、日本に潜入していた工作員がいるとの情報もあります。

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