以下、自民党が1986年に発表した「スパイ防止法案」(第4次案)の全文です。

防衛秘密を外国に通報する行為等の防止に関する法律案

第一条目的
 この法律は、防衛秘密の保護に関する措置を定めるとともに、外国に通報する目的をもって防衛秘密を探知し、若しくは収集し、又は防衛秘密を外国に通報する行為等を処罰することにより、これらのスパイ行為等を防止し、もって我が国の安全に資することを目的とする。

第二条定義
 この法律において「防衛秘密」とは、防衛及び外交に関する別表に掲げる事項並びにこれらの事項に係る文書、図画又は物件で、我が国の防衛上秘匿することを要し、かつ、公になっていないものをいう。
2 この法律において「不当な方法」とは、法令に違反し、対価を供与し、偽計を用い、又は秘匿状態にある文書、図画等をみだりに開披する等社会通念上是認することのできない方法をいう。

第三条防衛秘密保護上の措置
 国の行政機関の長は、その取り扱う防衛秘密に属する事項又は文書、図画若しくは物件を防衛秘密として指定しなければならない。ただし、この指定に当たっては、いやしくも防衛秘密に属しないものを指定するようなことがあってはならない。
2 国の行政機関の長は、前項の規定により防衛秘密として指定した事項又は文書、図画若しくは物件について常に点検を行い、我が国の防衛上秘匿する必要がなくなったとき、又は公になったものがあるときは、速やかに、その指定を解除しなければならない。
3 国の行政機関の長は、政令で定めるところにより、防衛秘密について取扱責任者及び取扱者を定め、標記を付し、関係者に通知する等防衛秘密の保護上必要な措置を講じなければならない。
4 前項の措置を講ずるに当たり、国の行政機関の長は、防衛秘密を国の行政機関以外の者に取り扱わせる場合には、これを取り扱う者に対し防衛秘密であることを周知させるための特別な配慮をしなければならない。
5 防衛秘密を取り扱う者は、これが漏れることのないよう最大の注意をしなければならない。

第四条罰則
 次の各号の一に該当する者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
一 外国(外国のために行動する者を含む。以下この条及び次条において同じ。)に通報する目的をもって、又は不当な方法で、防衛秘密を探知し、又は収集した者で、その探知し又は収集した防衛秘密を外国に通報したもの
二 防衛秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した防衛秘密を外国に通報したもの

第五条
 次の各号の一に該当する者は、二年以上の有期懲役に処する。
一 外国に通報する目的をもって、防衛秘密を探知し、又は収集した者
二 前条第一号又は第二号に該当する者を除き、防衛秘密を外国に通報した者

第六条
 次の各号の一に該当する者は、十年以下の懲役に処する。
一 不当な方法で、防衛秘密を探知し、又は収集した者
二 防衛秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した防衛秘密を他人に漏らしたもの

第七条
 前条第二号に該当する者を除き、業務により知得し、又は領有した防衛秘密を他人に漏らした者は、五年以下の懲役に処する。

第八条
 全四条の未遂罪は、罰する。

第九条
 防衛秘密を取り扱うことを業務とし、又は業務としていた者で、その業務により知得し、又は領有した防衛秘密を過失により他人に漏らしたものは、二年以下の禁錮又は二十万円以下の罰金に処する。

第十条
 第四条の罪の陰謀をした者は、十年以下の懲役に処する。
2 第五条の罪の陰謀をした者は、七年以下の懲役に処する。
3 第六条の罪の陰謀をした者は、五年以下の懲役に処する。
4 第七条の罪の陰謀をした者は、三年以下の懲役に処する。
5 第四条の罪を犯すことを教唆し、又はせん動した者は、第一項と同様とし、第五条の罪を犯すことを教唆し、又はせん動した者は、第二項と同様とし、第六条の罪を犯すことを教唆し、又はせん動した者は、第三項と同様とし、第七条の罪を犯すことを教唆し、又はせん動した者は、前項と同様とする。
6 前項の規定は、教唆された者が教唆に係る犯罪を実行した場合において、刑法(明治四十年法律第四十五号)総則に定める教唆の規定の適用を排除するものではない。

第十一条自首減免
 第五条第一号、第六条第一号、第八条又は前条第一項から第四項までの罪を犯した者が自首したときは、その刑を軽減し、又は免除する。

第十二条国外犯
 第四条から第九条まで及び第十条第一項から第五項までの罪は、刑法第二条の例に従う。

第十三条この法律の解釈適用
 この法律の適用に当たっては、表現の自由その他国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならない。
2 出版又は報道の業務に従事する者が、専ら公益を図る目的で、防衛秘密を公表し、又はそのために正当な方法により業務上行った行為は、これを罰しない。

附則
 この法律は、公布の日から起算した六月を超えない範囲において政令で定める日から施行する。

別表(第二条関係)
一 防衛のための態勢、能力若しくは行動に関する構想、方針若しくは計画又はその実施の状況
二 自衛隊の部隊の編成又は装備
三 自衛隊の部隊の任務、配備、輸送、行動又は教育訓練
四 自衛隊の施設の構造、性能又は強度
五 自衛隊の通信の内容
六 自衛隊の通信に用いる暗号
七 自衛隊の任務の遂行に必要な艦船、航空機、武器、弾薬、通信器材、電波器材その他の装備品及び資材(次号において「装備品等」という。)の構造、性能若しくは製作、保管若しくは修理に関する技術、使用の方法又は品目及び数量
八 自衛隊の任務の遂行に必要な装備品等の研究開発若しくは実験の計画、その実施の状況又はその成果
九 我が国の安全保障に係る外交上の方針
十 我が国の安全保障に係る外交交渉の内容
十一 我が国の安全保障に係る外交上の通信に用いる暗号
十二 我が国の安全保障に係る外国に関する情報